鬼才 押見修造の個性的過ぎる作品

最終的にどこへ落着するのか

壁を乗り越えて

先の展開が全く読めないのも押見修造先生の作品ならではと言ったところですが、今作は既に完結している。そもそも、こんな内容で何処に行き着くのかがわからないと答える人も多いかもしれません。何せ行き着く暇もない、ヒロインが何をしたくて、主人公が何を求めているのかが初見では全くわからないという人が大勢いるはずだからだ。

それもそうだ、今作の1巻を見ただけで結末が見えては物語としての価値がまるでない。わからないからこそ面白さが倍増するわけだが、惡の華はとりわけ先の展開を予測するのが難しい。これまでアニメ化などの映像作品化をされて話題を博したこともありましたが、何より結末が何処に行き着くのかを知りたがる人は多いでしょう。

では実際、今作はどのように物語を落ち着かせるのか、完結しているのでここでは少しネタバレを含めて話をしていこう。

結末に至るまで

高男と佐和の関係

まず高男と佐和についてですが、彼らの関係は中学時代にてそこで一度全ての関係が打ち切られてしまいます。原因を創りだしたのは奈々子だが、その影響でこれまで高男が何をしてきたのかが知られるようになったことで、高男の両親は彼を連れて逃げるように引っ越しを決意するのだった。それを知った佐和は彼と共に何処かへ『逃げよう』と決意しますが、誘った本人の佐和がこれからという時に高男を拒絶します。

それをきっかけとして、退廃的な2人の関係にピリオドを打たれるも、高男は佐和と過ごした日々の中で自分の中に潜む闇に心を引っ張られてしまった。それを彼に想いを寄せ、その後付き合う事になる常盤文が見ぬいていた。高男はその後、祖父が亡くなったことから逃げるように去った街へ帰郷すると、同じ頃にいなくなった佐和の居場所を突き止める。会いに行こうと決断したのに文も同行し、数年ぶりに佐和と邂逅するのだった。

しかしそれで高男と佐和はお互いに結ばれるという選択肢ではなく、あの時言いそびれた、また理由を確かめたかったなどの理由からが大きい。けれどその直後に高男が文と交際しているという現実をつきつけられた際の表情、それはまさに本作のテーマである『絶望』が体現されていた。この瞬間、2人の関係は終止符を打たれ、その後はお互いに生きる道を歩んでいくようになった。

奈々子の結末

高男と佐和に翻弄されて、それまでの自分とは違った抑圧された渇望的な感情に促され、消えるようにして去った奈々子の消息を知りたがる人もいると思います。彼女もまた事件後、引っ越しをして何事もなく暮らしており、その後は高男のことを想いながらも別の男性と結婚する選択肢を選んだ。子どもにも恵まれて幸せな主婦として過ごしていましたが、心はあの日のまま置いてけぼりの状態。

そんな過去を払拭するように忘れるように去った街へ戻り、彼女の罪が収束した場所に立った。そこへやってきたのは、自分と仲良く接してくれていたかつての親友、木下です。作中では奈々子の恋人としてどうなのかと疑問にすら感じた高男を一方的に嫌悪しながらも、奈々子から何も告げられないまま自分の元から離れてしまったことを彼女はずっと悲嘆に暮れた。まさかの再会だったが、そこで何をいうでもなく、自分を大切に感じてくれる木下に奈々子は呆然としながらもその思いを受け止めます。

この時やっと、彼女が一歩成長したと言って良いかもしれません。

佐和のその後

そして気になるのはメインヒロインであり、物語中で一番の葛藤を抱え込んでいた佐和についてだ。高男を介することで世界と自己の矛盾を解消するよう、本能のままに曝け出すように暴れていた彼女ですが、恐らく作品の中で一番自分と現実との解離性に苦しめられていたといえます。その苦しみから逃げようとして高男と心中しようとさえしましたが、彼女にとっての心中は『逃げ』であったが、高男にとっての心中は『目的』だった。

苦しみから死ぬための行動と、死ぬことを目的にするのとでは原動力が異なる。そこで初めて佐和は、高男と同類ではなく、本質的に彼と自分は決定的なまでに違うという事を思い知らされる。死ぬことに恐怖を覚えないどころか、悦といったように肯定する高男の姿に佐和の心内で蘇ってきたのは『逃げたい、でも生きていたい』というものだった。

理解した瞬間、高男を否定したことによって彼女は自己認識をやっと確立させることとなり、その後の生活でこれまでの性格が嘘のように改められていったと考えられます。ラストでは穏やかな笑みと共に大人の女性らしさまで醸し出しているところが、ファンの間で評判となっています。

自分とは何か

ここまで分析して、惡の華とは『自己認識と現実世界との乖離に悩む少年少女の物語』だったのではないか、と筆者は分析している。兎にも角にも、これだけ奥深い作品だ。最初は見ていて嫌悪感を抱くこともあるかもしれませんが、読み進めれば読み進めるほどにキャラクターたちの心情も見えてくるので、少し耐えつつもじっくり見てもらいたい。