鬼才 押見修造の個性的過ぎる作品

登場人物について

倒錯的な主人公たち

そもそも惡の華とは何か、という話題にも軽く触れておこう。元はフランス人作家のシャルル・ピエール・ボードレール著者の詩集『悪の華』が原点であり、原作の悪の華でも作者の退廃的かつ官能的な日常を描いた作品が多く記録されている。今作に影響された詩人も多いと言われていますが、あまりに反道徳的な内容から問題のある部分は削除するようにとの指示が出された。その後も、削除指定された詩は全て作品の中から抹消されるなどしているあたり、今作が非常に危険な思想にあふれた内容のものだという事を証明している。しかしてそれ故に、人間の本能とも言うべき部分が色濃く描かれているとも言えるでしょう。

主人公たちもそんな惡の華にみいられたもの達ばかりですが、それを中学生のまだ自分という存在を確立できていない時代に見たことで主人公の高男は自身に対しても自己矛盾などを抱え込んでいってしまいます。目立たず、マイノリティな自分の面を決して表に出さないまま過ごしていたが、仲村佐和との接触によって彼の中で眠っていた何かが目覚めるまでに至った。そして高男に見いだされるように、奈々子もまた彼に魅了されていきます。

登場人物について

そんな惡の華で登場する人物、主に4人に焦点を絞って話をしていこう。

春日高男について

まずは本作の主人公である『春日高男』についてだ。仲村佐和との邂逅以前は内向的な性格で対人関係などを尊重しない、おとなしめの中学生として描かれていた。しかしその実、内面的な世界で彼を彩っていたのは、

自意識過剰

潔癖症

内向的

といったものが彼の本質に連なっている。自意識過剰で潔癖症というところまでは分かる、しかしそこに『内向的』という要素がプラスされることで、自分という存在に耐えまなく苦しませる要素があった。自分の抱く自己認識の世界と現実社会においての間柄は良くない、自分はこういう人間なのに伝わらない、どうして自分はこうなのかといった認識によるズレに悩まされていた。

こうした悩みは中学時代、それこそ13~15歳までの子どもには珍しい話ではないだろう。誰しもこの頃は自分とは何か、一度は哲学的に物事を考えるもの。答えを見出そうと思っても見いだせないが、それでも自分には何かあると信じているからだ。

しかし偶発的に佐和から脅迫を受けるようになったことで自己嫌悪に苛まれるも、同時に自分の中で眠っていた退廃的な部分が何処にあるのかを理解していく。しかし段々と自分の本質が何処にあるのか、また自分が何を思っていたのかを理解していくようになる。

ただし、高男自身は佐和によって自分とは何かを見出すようになってからは、彼が作中で一番の異常性発揮するようになったのではないかとも考えられる。

仲村佐和の行動

本作のヒロインであり、高男を精神的に追い詰めながらも共に果てのない旅を歩くために引きずり込もうとする共犯者として描かれている『仲村佐和』についても触れておかなくてはならない。作中ではクラス一の問題児であり、教師にすら反抗を通り越した侮蔑な言葉を投げることを厭わない人間性から、作中きっての異常性を発揮していた。元は高男とも接点はなかったが、高男が起こした行動を目撃したことで、彼の弱みを握って理不尽かつ無茶な要求を何度となくするようになる。

これだけ見れば彼女が何処までドSな性格なのかと思う、事実として最初は彼女に良い印象を持たなかったという人が多かったはずだ。筆者もそうだが、読み進めていく中で高男の精神を解放させるためにあれやこれやとしているものの、一番解放されたがっていたのは彼女だったのではないか、という点が挙げられます。自分と同じ、鬱屈した中で苦しみながらも変態的な要素を噛み締めたものだと思ったから近づいたのではないか。

やがてある事件をきっかけに離れる事になってしまった高男と佐和、本心ではないにしても別れるきっかけにもなるのだった。

佐伯奈々子の本質は

高男と佐和に翻弄されながらも、物語の展開で段々と高男に依存を見せていくようになったのが『佐伯奈々子』という少女の存在が挙げられます。彼女が起こした所業によって高男と佐和は決定的な離別となってしまうも、奈々子も高男とは結局結ばれることはなかった。元はお上品な令嬢という身もあって貞淑さなどから生徒たちに人気が高かったものの、それは本来の自分ではないという意識が強くあったからだ。

彼女もまた現実社会と自分との差が埋めきれず、自己認識に乏しい少女だったからこそ、高男が自分自身でも知らない一面を見せてくれたことによって依存していくようになる。ですがその行動で全てが台無しになり、彼女は人生までも支障をきたすまでに至ってしまった。ただそれでも後悔した様子がないあたり、自分のしたかったことと自分というものの存在が何処にあるのかを理解した瞬間だったのかもしれません。

常盤文について

物語第2部、上記3人がそれぞれの道を歩んでいる中で高男が自身の学校でまたしても人気者だった女子生徒である『常盤文』と出会った。彼女もまた自分が抱くイメージと、他人が寄せる印象とに差がある人物だったのです。高男とは偶然ながら交流するきっかけを持つようになり、高男も彼女と出会ったことでそれまで封印していた読書の趣味を取り戻していた。

近づいていく2人、やがて自然と男女関係に発展していきますが、文は高男の中で生き続けている1人の少女が意識します。それを乗り越えなければ自分の居場所はないと、そう察していた。登場回数は少ないながらも、高男にとって欠かすことの出来ない存在になっていくのが彼女の特徴だ。